甲府地方裁判所 平成3年(わ)60号 判決 1991年6月21日
本籍
山梨県中巨摩郡昭和町河東中島三〇三番地
住居
甲府市国母八丁目一八番四号
グランドハイツコクボ四〇二号室
飲食店経営
青栁健蔵
昭和一二年三月三〇日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官鶴田小夜子及び弁護人関一各出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役一年及び罰金一五〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、山梨県中巨摩郡昭和町河東中島九六八番地の六において、「でんえん」の名称で飲食店を営むものであるが、自己の所得税を免れようと企て、売上の一部を除外するなどの方法により所得税を秘匿した上
第一 昭和六二年分の実際荘所得金額が四四一九万六八〇九円あったにもかかわらず、昭和六三年三月七日、甲府市丸の内一丁目一一番六号の所轄甲府税務署において、同税務署長に対し、昭和六二年分の総所得金額が五七七万三三三五円で、これに対する所得税額が七六万九三〇〇円である旨の虚偽の所得税額確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額一八五〇万八二〇〇円と右申告税額との差額一七七三万八九〇〇円を免れ
第二 昭和六三年分の実際総所得金額が四三四五万八〇〇六円あったのにもかかわらず、平成元年三月一四日、前記甲府税務署において、同税務署長に対し、昭和六三年分の総所得金額が六二一万四二〇一円でこれに対する所得税額が七六万三四〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額一六六六万二四〇〇円と右申告税額との差額一五八九万九〇〇〇円を免れ
第三 平成元年分の実際総所得金額が四五五四万二一〇〇円あったのにかかわらず、平成二年三月一五日、前記甲府税務署において、同税務署長に対し、平成元年分の総所得金額が四五三万二二三五円で、これに対する所得税額が四七万一六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額が一八一三万二六〇〇円と右申告税額との差額一七六六万一〇〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する供述調書二通(二五枚のもの及び一三枚のもの)
一 青栁芳子の検察官に対する供述調書
一 検察官鶴田小夜子及び弁護人関一作成の合意書
一 東京国税局収税官吏作成の調査書二八通
一 東京国税局収税官吏作成の領置てん末書
一 押収してある所得税の確定申告書(三通)、予定納税額の通知書(三通)、青色申告決算書(三通)(平成三年押第一五号の一ないし九)
(法令の適用)
被告人の判示各所為はいずれも所得税法二三八条(一二〇条一項三号)に該当するところ、情状により所定刑中懲役刑及び罰金刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により最も犯情の重い判示第一の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪所定の罰金刑の合算額の範囲内で被告人を懲役一年及び罰金一五〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは同法一八条により金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。
(量刑の理由)
被告人は、三年間にわたり不正行為をともなう過小の確定申告によって合計五一二九万八九〇〇円もの多額の税を逋脱したもので、過小申告の程度は実際の所得額の約一割を申告したにすぎず、逋脱した税額は正当に納税すべき額の約九六パーセントにも及んでいる。およそ納税は国民の憲法上の基本的義務であって、これを不正に免れることは、国家の課税権を侵害するのみならず、一般サラリーマン等他の誠実な納税者に不公平感を与え納税意欲を削ぐ結果をも招来しかねないものであって、税負担の公平という右見地からすると、本件のような高率の脱税行為は極めて反社会的で悪質といわざるをえない。
しかしながら、被告人は事実を素直に認めて反省していること、犯行当時は年一回税理士による監査を受けていたが、現在ではこれを月一回に増やすなどの措置を講じ、今後は会計をガラス張りにして脱税はしない旨誓っていること、重加算税、延滞税及び地方税などの支払により三年間の利益をほぼ吐き出すことになるなど被告人にとり酌むべき事情もあるので、懲役刑については執行猶予を付することとした。
(求刑・懲役一年及び罰金二〇〇〇万円)
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 奥田保)